Share

第92話 色欲の王

Author: O.T.I
last update publish date: 2026-07-04 12:33:04

(君の母……エドナがエル・ノイア神殿の聖女だったことは知ってるのだろう?)

かつての事件の話について……アルドはまず、その話から切り出した。

(あ、はい。それは知ってます。……お母さんから直接聞いたわけじゃないですけど)

エドナは娘に昔のこと……特に王都に住んでいたときのことをあまり話したがらない。なので、彼女は自分が神殿に所属する聖女であったことも、娘に直接教えてはいない。エステルがそれを知ったのは、シモン村の長老がポロッとこぼしたのを聞いたからだ。

(そうか……。まず一つ言えるのは、かつての『事件』の中心には彼女……『赤の聖女エドナ』の存在があった)

(……そう言えば、何で『赤の聖女』なんですか?お母さん、ぜんぜん赤くないですよ?アイツらも何か勘違いしていたみたいですけど……)

エステルは鮮やかな赤い髪をしているが、それは父ジスタルから受け継いだもの。エドナは金髪碧眼だ。だから、エステルは母がなぜ『赤の聖女』などと呼ばれているのかが不思議であった。

(そうなのか……?俺もてっきり……君と同じ赤髪なのだと思ったが)

(私の赤髪は、どちらかと言えばお父さん譲りですね。お母さんは金髪で
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第142話 凱旋

    王自らが率いる騎士団がもうすぐ王都に凱旋するという報せが届くと、大勢の民たちから大きな歓声が上がった。突如として巨大な竜が王都郊外に出現したとき……騎士団が迅速に動いたため辛うじて大パニックにまで至る事は無かったものの、民の間には不安と恐怖が広がっていた。しかし、竜が討伐されたと言う一報が先触れの騎士によってもたらされると、一転して王都中が歓喜に包まれる。そして王都の民たちは英雄たちを称えようと、門前広場や王城に至る街路に大挙して押し寄せた。そんな熱気渦巻く中……王都に残って指揮に当たっていたディセフは、何とか民衆の混乱を押さえるべく配下の騎士たちとともに奮闘していた。「もうすぐ陛下が戻られるぞ!!何とか道を空けさせろ!!」とにかく、アルドが大勢の民衆に囲まれ危険にさらされるのは避けなければならない。既に騎士団員は非番の者も呼集してるが、それだけでは足りずに王城の文官まで駆り出して……どうにか凱旋ルートの整理をしていくのだった。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆そしてついに英雄たちが凱旋すると、王都中を揺るがすほどの歓声が上がった。先頭を行くのは騎士団長のディラック。彼の顔は王都民たちにも良く知られており、その名を呼ぶ者も多い。そして配下の騎士たちが続き、彼らに護られるようにして国王アルドが姿を現すと、民衆の熱気は最大限に高まる。しかし、王が横抱きにした赤髪の少女の存在を彼らが認めると……驚きと戸惑い、疑問を囁き合う声がちらほらと聞こえてきた。(なぁ、あの娘……誰だ?凄え可愛いけど……)(分かんないけど……陛下が自ら運んでるってことは、お妃様とか?)(そんな話、聞いたことが無いわ。婚約者様とかじゃない?)(そうかも?……でも、何でそんな方が?)……そんなふうに、|謎の少女《エステル》の噂は瞬く間に広がっていき、様々な憶測が飛び交う事になった。一番多い予想としては、彼女はアルド王の婚約者だ……というもの。しかし、そんな人物がなぜ危険な竜討伐に同行してるのか?という疑問が生じる。次いで多かったのが、たまたま現場に居合わせた少女を救い出し、その美貌から王が一目惚れしたというもの。一目惚れという点については、あながち間違ってはいないかもしれない。何れにしても、王自らが大切そうに抱いて運ぶ少女なのだから、特別な関係には違いないだろう

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第141話 勝利の余韻

    騎士たちの勝どきの叫びが聖域の森に木霊する。突如として現れた巨大な竜は討ち果たされ、王都に迫っていた危機は回避された。皆が尽力した結果であるが……特に目覚ましい活躍をしたのは、最後に竜殺しを成し遂げた一人の少女。彼女の周りに勇士たちは集い、喜びの輪が広がる。「エステル!!よくやってくれた!!」「やったな!!」 「最後は見事な一撃だったぜ!」「皆が頑張って注意を引き付けてくれたから倒せました!!」最前線で生命をかけて戦っていたアルドたちがエステルを称えれば、彼女も皆のおかげだと感謝した。そして……「ふぅ……引退騎士にはキツかったぞ」「あなたはまだまだ現役でいけるしょう?」少し遅れ、ジスタルとエドナも歓喜の輪に加わる。「あ!そうだ!何でお父さんとお母さんがここにいるの!?」戦いに集中するため隅に追いやっていたその事実にエステルは改めて驚きながら、なぜ両親がここにいるのかを聞く。「『何で?』はこっちのセリフよ」「お前が後宮に入ったと聞いたから、事実確認するために来たんだ」「……?何で知ってるの?」理由を聞いてもなおギモンが残り、首を傾げるエステル。すると彼女たちの会話を聞いていたクレイが補足する。「俺が手紙を出したんだよ。お前はそんな気の利いたことしないだろうし……」「そ〜なの?クレイは気が利くよね〜」やれやれ……と言った雰囲気でクレイが言うと、エステルはのんきにそう返した。これまでの彼の苦労が偲ばれる。「ホント、クレイくんに付いてってもらって正解だったわね。……ウチの娘、お嫁にもらってくれない?」「遠慮しておきます」エドナが娘を|売り込んでくる《押し付けようとする》が、クレイはノータイムで断りを入れた。そのやり取りはこれまで何度も行われてきたものであるのだが……それを知らないアルドはピクリとなって会話に割って入った。「失礼。先ずお二人には此度の戦いへのご助力について感謝申し上げます。それから、|義父《ちち》上、|義母《はは》上におかれては色々と確認したいこともございましょうが……この場では話せないことも多いので、申し訳ありませんが王城までお越しいただけないでしょうか?」王の言葉にしてはやたらと低姿勢なのと、聞き慣れない単語に「義父?義母?」となり、ジスタルとエドナは顔を見合わせる。しかしこの場で話をするのは何かと都合が悪い

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第140話 剣聖の娘は竜殺しを成し遂げる

    『グルァーーーッッ!!!』竜が怒りの咆哮を上げる。たかが人間ごときに、天から地に叩き落された。たかが人間ごときに、地上最強種族が一瞬でも恐れを抱いた。そのあり得ない事実に、竜は怒り狂う。それは人間にとって天災に等しいものだ。力ある竜が怒りに任せて荒れ狂えば、力なき人間たちなど成すすべもなく蹂躙される……はずだった。しかし、その場にいる誰もが希望を失っていなかった。彼らの表情は、無謀な戦いに挑む者のそれではない。|竜の吐息《ドラゴン・ブレス》が放たれたとき、皆が一度は死を覚悟した。しかし今は、むしろ勝利を確信している。なぜならば……彼らは希望の光を目の当たりにしていたから。「はぁーーーっっ!!!」竜を地上に引きずり落とした張本人……女神によって持てる力の全てを解放されたエステルが、黄金のオーラを纏いながら竜に肉薄する。そして巨大な竜の背を軽々と跳び超え、渾身の一太刀を浴びせた。『グガァーーッッ!!??』彼女の斬撃はやすやすと硬い鱗を切り裂いて血飛沫が舞い、竜は苦痛の叫びを上げた。まだ致命傷を与えたとは言い難いものの、初めてまともなダメージが入ったのである。「通った……!!竜の意識を少しでも散らせ!!エステルが攻撃に集中できるようにフォローしろ!!」アルドの指示が下され、戦闘陣形が変わる。アルド、クレイ、ディラック、ジスタル、バルドらは竜の周りを取り囲み、少しでも竜の意識を分散させるように立ち回る。他の騎士たちは、王城や神殿から駆けつけた者たちも含めて弓や魔法による遠距離攻撃を始める。竜にとって、それらは針で刺される程度のものだったが……間断なく浴びせ続けられれば、|最も危険な人物《エステル》一人だけに意識を向け続けることも出来ない。こうして完全に|竜《ドラゴン》包囲網が敷かれ、エステルの攻撃を中心に少しずつダメージを与えていく。しかし事態は好転したものの、竜の脅威は変わらず油断できる状況ではない。実際、エステルは早期決着をつけるべく首の切断を狙っているが、敵も流石にそうやすやすとそれはさせてくれなかった。その一方で、竜は鬱陶しく纏わりつく人間たちによって注意力を分散させられながらも、何とかエステルを止めようとしていた。だが、脚で踏み潰そうとしても躱され、鋭い爪で切り裂こうとしても大剣に弾かれ……逆に反撃によるダメージがじわじわと蓄積していく

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第139話 女神

    ………………………………「…………え?」誰かの小さな呟きが、静寂の中ではやけに大きく聞こえた。上位竜をも超えるであろう巨大な竜から放たれた|竜の吐息《ドラゴン・ブレス》。それは人間が受け止めるにはあまりにも過剰な攻撃で……その場で戦いに臨んでいた多くの者は死を覚悟した。そして実際に、目を焼くような眩い光と耳をつんざく轟音によって、己に最期の瞬間が訪れた事を確信したのだ。しかし、彼らはまだ生きていた。それどころか傷一つすら負っていない。それは何故なのか?その答えは……「……光の……結界?」アルドは破滅の光が自分に襲いかかろうとする瞬間、最後まで竜から目を逸らすことはなかった。だから彼は自分たちがなぜ助かったのか、その理由が分かった。天を仰ぐ彼の視線の先には……黄金に輝く光のドームが戦場を覆い尽くしていた。それが彼らを護ってくれたのは間違いない。しかし、竜のブレスを完全に防ぐような結界魔法など……たかが人間の魔道士程度が作り出せるものなのか。自身も多少なりとも魔法を扱うが故に、アルドはその光の結界が常軌を逸するほど高度な魔法であると理解した。そして、その光のドームを支えるように、地上からは光の柱が立ち昇っている。それを発していたのは……「「エステルっ!?」」全身が黄金に輝くエステルを見たアルドやジスタル、エドナ、クレイの声が重なった。そして彼女は……普段では見られない、感情が抜け落ちたような表情で空を見上げている。その雰囲気は静謐で、その美貌も相まってどこか神秘的なものを感じさせた。『全く……何やら騒がしいと思えば。【器】に足るこの娘がおらねば、ここら一帯消し飛んでおったぞ』その声は確かにエステルのもの。しかし彼女を知る者からすれば、それが別人であることは明白だった。「エステル……じゃない。誰……?」エドナは、娘の身にいったい何が起きたのか分からずに呆然と呟く。他の者たちは声すら出ないほどに驚き戸惑っていた。『ふむ……』エドナの問いには応えず、エステルの姿をした何者かは自分の身体を確かめるように手を握ったり開いたりしている。『急なことだったゆえ半ば無理やり身体を拝借したが……長くは入ってられそうもないな。資質はあるが、まだまだこれから……ということか』「身体を借りた……?まさか……」アルドはそのセリフで、彼女がいったい何者な

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第138話 総力戦

    「「エステル!!」」「えっ……お父さん!?お母さんも!?なんで!?」「師匠!?」巨大な竜との戦いの場面。そこに、全く予想もしていなかった人物……ジスタルとエドナが突然現れたことに、エステルやディラックは思わず攻撃の手を止めて驚愕した。最も果敢に攻めていた強者のうち二人が一瞬でも立ち止まってしまったため、竜の反撃が苛烈さを増す。「「「うわぁーーーっっ!!?」」」振り下ろされる脚、薙ぎ払われる尾、襲い来る|顎《あぎと》……常人には抗いがたい猛威が騎士たちを襲い、まるで羽虫のように彼らを追い散らす。「話をするのは後だ!!今は攻撃の手を止めるんじゃない!!」即座に状況を察したジスタルは二人にそう叫びながら自らも戦線に加わる。いま何とか竜をこの場に留めていられるのは、ごく数人の強者の力があってこそ。ならば、自分やバルドが加われば、劣勢を覆すことも可能……と、彼は考えた。「お前たちは下がって支援に徹しろ!!」ジスタルとバルド……更なる強者の参戦によって状況が変化するであろう事を受け、アルドは即座に指示を飛ばした。(まさか……|義父上《ちちうえ》や|義母上《ははうえ》だけでなく、伯父上まで来られるとは……しかし、これで僅かにでも勝ち筋が見えてきたか?)エステルやディラックと違い、新たな協力者の登場にも表向きは冷静さを保っていたアルドであったが、内心ではバルドの参戦にかなり驚いていた。彼に対しては色々と思うところはあるものの、いまこの場における助力については素直に感謝する。なお、ジスタルとエドナの事はやはり義父母呼びである。そして、エステルやアルドなどの力ある者たちが前衛の要となり、他の騎士たちは足手まといにならないように支援に徹する事となった。負傷した者はエドナの力によって既に治療を施されている。王城からの支援部隊も少しずつ集まってきた。対する竜も、出現直後は目覚めたばかりだったからなのか比較的動きが緩慢だったが、今は攻撃速度と頻度が格段に増している。騎士たちを下げたのは正解だろう。エステルたち強者であっても一瞬たりとも油断できず、まともに被弾すればただでは済まないのは彼らも同様だ。否が応でも多大な緊張感を強いられる戦い。しかし人間たちも竜も互いに決定打には欠け、戦いは長期戦にもつれ込むと思われたのだが……「グオォーーーッッ!!!」しつこく纏わり

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第137話 さらに集う強者たち

    王都外壁から外に出たジスタルとエドナは、ドラゴンが見える方角に向かって道なき道を一直線に走る。獣道すら無いような森の中は相当な悪路であるが、ジスタルが剣で藪を切り払い、エドナがその後ろに続く。そのスピードは平地でのそれよりは若干落ちる程度だ。彼らは辺境の開拓村での暮らしも長いので慣れたものである。「もう戦いが始まってるみたいね」「ああ。あそこから動いてないところを見ると、結構善戦してるようだ」まだもう少し距離はあるが、二人とも既に戦いの気配を感じ取っていた。そして竜をその場に留めているくらいには騎士団が頑張ってくれているのだろう……と、ジスタルは感心する。「もしかして……あの子たちもあそこで戦ってるのかしら?」ジスタルの言葉を聞いてエドナはその可能性を考えた。エステルとクレイならば、ある程度は竜との戦いにも慣れているから、二人の存在が善戦の理由なのでは……と思ったのだ。「裏組織の壊滅作戦……だったか?|あれ《・・》がその組織とやらに関係してるってんなら、可能性はあるな。……まあ、そうでなくても首をつっこむだろうが」「そうよね……あの娘、ドラゴン(の肉)が大好きだし。はぁ……」思わずため息をつくエドナ。それは娘のトラブル気質に呆れるというよりは、どちらかと言うと心配する気持ちから出たものだった。そして、戦闘の音が間近に聞こえるくらい目前まで二人が迫ったとき。ジスタルは何者かの気配が横合いから近づいて来るのに気付いた。「誰か来る……?」走るスピードはそのままに、警戒してそちらの方を見ると……ある男が走り寄ってきて合流してきた。彼は記憶にある姿よりも歳をとっていたが、ジスタルもエドナも知る人物だった。 「「バルド陛下!?」」「誰かと思えば……ジスタルだったか。それに……今日は懐かしい顔を見る日なのだな」そう言う彼の表情は穏やかだ。同じ『懐かしい顔』でも、ミゲルに対する反応とはかなり異なる。「陛下……まさか、|アレ《・・》と戦うつもりですか?」「無論だ。そう言うお前たちもだろう?」かつての王が自ら死地に向かっている事にジスタルは眉をひそめて言うが、バルドは「それがどうした?」と言わんばかりだ。「……あの時以来、鍛錬は欠かしておらぬ。最後にお前と手合わせした時よりも、今の俺は強い。むしろ今が全盛期かも知れぬな」「しかし……」バルドの言

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第3話 手合わせ

    辺境伯デニスの願いを聞き入れ、彼の配下の騎士と手合わせする事になったエステル。彼女はデニスの案内のもと、父ジスタルと共に領主邸から騎士団本部に併設されている訓練場へと向かった。「ここがニーデル騎士団の本部。この時間なら隊長格の奴らが訓練してるはずだ」まず騎士団本部へとやって来た一行。デニスは慣れた様子で門番の兵に労いの言葉をかけながら、父娘を連れて本部の中に入った。ジスタルは懐かしい雰囲気を感じて、目を細める。エステルは物珍しさからキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回していた。「閣下……!態々こちらにお出でになるとは……いかがされました?」「おぉ、ウォーレンか。丁度いい。すまんが、訓

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第2話 剣聖の娘

    エステルは辺境の開拓村出身の15歳の娘。燃え盛る炎のような鮮烈な赤い髪と、清らかな|水面《みなも》のように透き通った蒼い瞳を持つ、神秘的な美少女だ。だが、口を開けばその印象はガラリと変わる。彼女は幼少の頃から棒切れを剣にして振り回し、村の同年代の男の子たちを子分に従えるようなお転婆な娘だった。そして年頃の娘となった今でも、そのお転婆ぶりは変わらず。唯の棒切は、いつしか木剣に変わり……今ではしっかりと手入された実剣になった。振り回すだけの剣術とも呼べなかったものも、日々欠かさない稽古によって洗練された剣技へと昇華されている。そんな彼女を女性として見る者は、一部の例外を除いては居なかったが、

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第1話 プロローグ

    「はっ!せいっ!!やぁっ!!」色めく花々が咲き誇る庭園。そこは一見して綺羅びやかな……しかしその実、ドロドロとした愛憎渦巻く女の園。年若き王の伴侶、妃の候補となる女性が集められた後宮の一画である。そんな場所には似つかわしくない快活なかけ声が、広々とした庭園に響いていた。「はっ!ふっ!!せぇいっ!!」声の主……背中まである鮮やかな赤い髪を無造作に首の後ろで纏め、動きやすさ重視の簡素な服を着た少女は、掛け声を発しながら一心不乱に手にした木剣を振るっている。その格好はおよそ後宮住まいの女性とは思えないものだが、彼女は世話役の女官などではなく歴とした妃候補の一人である。服装に惑わされず、よ

  • 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ   第6話 帰路

    辺境伯領の領主デニスとの面会を終えたエステルとジスタルの父娘は、領主邸を出て帰路につく。エステルはこれまで村の外に殆ど出たことがなく、精々が近隣の町に買い出しに行く程度であった。だから領都ウィフニデアにやって来たのは今回が初めてであり、到着した時と同様にキョロキョロと街の様子を珍しそうに観察しながら歩いている。「やっぱり大きな街だよね~、お父さん!王都はもっと大きいの?」ウィフニデアの街は辺境にあるとは言え、流石に領都と言うだけあってかなり大きな街である。いま彼女たちが歩いているメインストリートには石造りの高い建物が立ち並び、多くの人が行き交う賑やかな街並みは、エステルにとって大都会そ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status